変オジ

もう…20年以上前の事をふと思い出した。

新宿のとある小さい飲屋さんに行くと
時々独りで飲んでいる男性がいた。

よくお会いするので
最初のうちは会釈をする程度…
そのうち段々お話をする様になった。

仕事の話になった時に
「絵を書いています」と、仰っていた。

彼が戦後、シベリアで捕虜として
抑留されていた頃の話を聞かせてもらったり
私がたまたま持っていたハンカチの色使いを
しきりに感心して
小さいメモ帳に色鉛筆でサラサラ〜と何やらスケッチをする。

いつもボロボロの格好をして
白い帽子を被っていた。
汗染みでよごれていた。
ちょっと変わっているけど
話がとにかく
面白いオジサンだなぁ…という印象の方でした。

私は彼の事を
変なオジサンだから「変オジ」と、呼んで
結構、気が合った。

時々、ボロボロのビニール袋を
無造作にカウンターの上に置いて
飲んでいらっしゃる。

中を覗いたら
帯のついた現金がドッサリ入っている。

「変オジ!このお金どうしたの?」と、聞くと

「どこそこデパートで個展があって絵が売れたから…」と、言う。

銀行振込でのやりとりが大嫌いなんだそうな。

この帯のついた現金は…
もしかするとこの変オジは…
すごく有名な画家さんなのかもしれないと思い
「変オジって有名な画家さんなの?」と、聞くと

「全く無名」と、言う。

しかしお店のママさんに伺ったら
彼女は変オジの個展に行って
「欲しいなぁ…と、思った絵があったんだけど
6号サイズってやつぅ?500万円位したのよね。
びっくりしちゃった」と、言っていた。

ヤバイ…。
今までこの変オジ相手に
散々絵画論のウンチクを言ってきた自分が恥ずかしい。
この人、本当にすごい画家の人なんだ…と、思った。

「とにかくねー
お金は銀行に預けても
騙されたりしないから
きちんと銀行振込にしてもらった方がいいよ。
襲われたらどうするの?」と、言って
酔ってちどり足で歩く変オジを
西武新宿線の駅まで送った事もあった。

この変オジは
いつもお会計の時に
私の分も払ってくれようとしたのだけれど
私は人におごってもらうのが
あまり好きではないので
絶対におごってもらわなかったんです。

時々「寿司でも食べようか」と、言って
ママさんに出前を頼むのだけれど
その分も半分きちんとお支払いした。

「クソじじいっ!よりによって
こんな高い寿司を頼まないでよねっ!」と文句を言いつつ
きちんとワリカンにした。

するとある日
自宅に彼の画集と額に入った絵が
送られてきた。

ちょっと東郷青児っぽいタッチの女性の絵だった。

あまり私の趣味ではなかったのですが
画集を見ていて
彼の初期の作品の「壁」というタイトルの絵は
「?!!!!!!!!」これはすごい!と、
鳥肌が立つ程、大好きな絵だった。

「どうせ送ってくれるなら
こっちの絵の方がよかったなぁ…」と
罰当たりな事を考えたりした。

いつしかその新宿の小さな飲屋さんへも足が遠のき
変オジとは時々電話で話をして
近況報告をする程度のお付き合いになり
彼は他界した。


すっかり変オジの事は忘れていたが
ふと今朝思い出したんですよ。

「あの画集と絵はどこへ行ったのか…」

絶対に実家にあるな…。

あるとすれば
あそことあそことあそこ…と
3カ所の場所が候補に上がっている。

今夜は実家に探しにいくか…。

あの送ってもらった絵と画集を
もう一度、今、見たいと思った。

絵画とか小説って
若い頃感じた印象と
歳を重ねてから感じる印象って
異なる場合が多いですよね。

例えば太宰治。

彼の事は娘時代は大ファンだったんですがね。

40を半ばにして
たまたま「人間失格」を再度読み返した事があった。

もう…彼のナルシストぶりが鼻について
途中で嫌になり読むのをやめてしまった事がある。

変オジの絵は
20代の頃の私はあまり印象に残る作品ではなかったのだけれど
今見たら、どう感じるのだろう…。

今夜は実家に帰って
大仕事ですなぁ…。

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昭和大橋歯科医院 Dr.chicoの日記

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