缶詰

私の実家での事。

それは例えばお正月であったりお盆であったり
親族が集まった時に、つまり何か“特別”な時に
父の許しがあった時に限り
奥の棚からうやうやしく母が運んでくる物。

タラバガニの缶詰。

その一つをまたもや母がうやうやしく食卓にのせ
ゆっくりとした口調で
「いい?これはね…タラバガニなの。
ズワイガニじゃないの。
1缶5000円もするの。
すご〜〜〜く高価な物なの。」と何度も念を押す。

「ってゆうかさ、どうせ頂き物でしょ?」と、口を挟みたくなるが
あまりの母の気迫に圧倒され
我々4人の子供達はただただ頷くしかない。

そして母がゆっくりと丁寧に缶のフタを開ける。

中には肉厚の美味しそうなタラバの身が
ギッシリと詰まっている。

それを母が丁寧に4枚の小皿に均等に分ける。

「お父さんの分は?」と聞くと
「お父さんはいいからお前たちで食べなさい」と満足そうな父。

「だからさぁ〜頂き物でしょう?」と更に突っ込みたくなるけれど
じっと我慢する私。
これが我が家に伝わる大切な“タラバガニ譲渡の儀”ですから。

ある日、夫と二人で実家に遊びに行くと
父はよっぽど機嫌が良かったのか
「五井さん、タラバガニ食う?」と嬉しそう。
「おぉ?タラバっすか?いいですねぇ〜」と蟹好きの夫。
すると母が例のごとく
「五井さん、これはねぇタラバガニなの。ズワイガニじゃないの…」と
一連のウンチク。
頂き物のくせにやけにもったいぶって
恩に着せるような口調になるのが癪に障る。

そしてその大切なタラバガニの缶詰をひとつもらったわけです。

翌日、
「あの缶詰あけてよ。」と夫。

私の料理する手がピタッと止まり眼光を鋭く光らせ
「何で?」

「イヤ…食べようかなぁ…と思ったんだけど」

「あのねぇ〜っ!タラバガニよぉう!ズワイガニじゃないのよっ!
今日みたいに何でもない日に食べるわけにはいかないのよぉっ!
だいいち、そのサラダの上にカニがのってるじゃないっ!」

「これカニじゃないよ…。カニかまぼこじゃんか…。」

「うるさいわねぇ…。男が細かい事グズグズ言わないのぉっ!
黙って食べなさいよ、そのカニサラダ!!」

「だから…カニじゃないんだけどぉぉ…」

不服そうな夫を尻目に
貧乏性の私は大切にその缶詰をしまっておきました。

そして月日が経ち…
先日、戸棚の中を覗いた夫が
「あ“〜〜〜っ!」と悲鳴をあげた。

「どうしたの?」と聞くと

「このカニの缶詰!賞味期限が切れちゃってるよ!」

「えぇっ?!」

夫に駆け寄り缶詰をふんだくって日付を確認すると
3ヶ月前に賞味期限が過ぎている。

しまった…。
うかつだった…。

「だからねぇ…食いたい時に食わなきゃだめなんだよぉ」と夫は恨めしそうに私を睨む。

「だ…大丈夫だよ…。
缶詰だし…。
ひ…火を通せば食べられるから…カニチャーハンにでもするよ…。」と、
うな垂れる私なのでした。

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昭和大橋歯科医院 Dr.chicoの日記

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