ズボンの丈

父はお出かけする時にはとてもお洒落な人で
トレンチコートと帽子のセットを好んで着る人でした。

ネクタイもポールスミスもビックリ!という類いの
個性的な柄を好んでいたと思う。

ちょっと派手目なネクタイも
70歳を過ぎて、毒気が抜けた年代の人がつけると
妙に品があったりして
手前味噌ですが、いいなぁ…と、思ったりした。

しかし…
ただ1つ彼は致命的な間違いをおかしていたんですな。

それは彼のこだわりだったのですが…

スーツのズボンの丈が若干短い!!!!!!
これは致命的だと思うんです。

一度だけ
「ちーさん(父の呼び名)、ズボンの丈はもう少し長めにした方が
かっこいいわよ」と、言った事がある。

すると
「ズルズルして気持ちが悪いんだよな」と、彼。

私は、思った事は歯に衣着せずに物申す人間なのですが
最愛の父親にだけは
あまり強く物事を言った事がない。
言えなかった。


今、思い出すと
あれは彼との最後の旅行になったわけですが
私が開業してから数年して
父と京都に旅行に行った事がある。

「旅費は全部、私がおごるからね」と、ちょっと誇らしい気分で
高崎から東京駅までの新幹線のチケット買う時に
グリーン車を買おうとしたら

いつもの様に「自由席でいいよ」と、言う。

「座れなかったら困るじゃない」と、言うと

「たった1時間だから立てばいいよ」と、言って
自由席の列に並んでいた。

並んでいる父の姿を遠くから見て

「やっぱりズボンの丈が短いなぁ…」と、ちょっとイライラした。

また地元では有名なスズランデパートの使い古した紙袋に
母が作ったお弁当が入っていて
その紙袋を持つ彼の姿もバランスとして嫌だなぁ…と、思い
またお金がないわけじゃないのだから
東京駅で駅弁を買えばいいのに…と、更にイライラした。

京都ではそこそこ豪遊して
とても楽しい旅行でしたが
ちょこちょこと
彼のズボンの丈が気になった。

その反動か
私は夫のズボンの丈にはうるさい。

「ちょっと長過ぎないか?」

「特にデニムは靴を履いて
ギリギリに床につく位が丁度いいのよ!」と、
徹底している。

しかし父が亡くなってみると
ズボンの丈なんかどーでもよかったなぁ…と、思う。

丈の事なんか気にせずに
彼との京都旅行を堪能してくれば良かったと、思う。

ちなみに…
私が払った旅費は全額より少し多めに、
後日、私の口座に振り込まれておりました。

またスズランデパートの紙袋は捨てずに
きちんと父は持って帰りました。

いかにも父らしいな…と、懐かしい思いでです。

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昭和大橋歯科医院 Dr.chicoの日記

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